本コラムに興味を持っていただきありがとうございます。

 

私は開発本部に所属している山口と申します。 

会社では製品開発のプロジェクトリーダーのような役割の仕事をしています。

今回は私が以前プリント基板の回路設計をしていた時に発生した、ある事象について紹介させていただきます。

 

とあるホテルで発生した事象なのですが、利用していたお客様が会計を行おうと料金精算機の前に立つとどこからか「キーン」という高い音が・・・

お客様から連絡を受け、従業員が駆け付けてみると確かにどこからか「キーン」というモスキート音のような異音が鳴っている!

 

 

異音の正体は??

 

この異音の正体は何か?従業員が部屋に入り、耳を傾け音の発生源を確認する。

テレビ?冷蔵庫?それとも何かの怪奇現象か・・・?

部屋の隅々を確認するが、発生源からは少し遠い・・・。

再度精算機の前に立ち、精算機に耳を傾けると「キーン」という音がハッキリと聞こえる。

異音の発生源はまさかの料金精算機だったのです。

 

 

何故に料金精算機から異音が?

 

ホテルからの連絡を受け、社内で異音が発生する原因の調査を行ったところ、以下の事が原因で異音が発生している事が判明しました。

 

・精算機を制御している基板内部で、使用している部品が振動し異音の発生源となっていました。

 

 

異音発生のメカニズム

 

基板内部では用途に合わせて電源電圧(DC**V)を生成しています。
この電源生成にはスイッチングレギュレータという電子部品を使用しているのですが、この
スイッチングレギュレータは電源生成の際にスイッチングと言って、電源電圧のON/OFFを繰り返します。

 

山口洋さん画像1

 

 

この時にスイッチングレギュレータの出力部分に接続しているコイルという電子部品に対して、パルス状の電流が流れます。

このパルス状の電流がコイルに流れる際に、コイルはわずかながら振動しています。

今回この振動しているスイッチング周波数が約10kHzであり、人間の可聴域の範囲内に入っていたため、異音として人間の耳に聞こえていました。

 

※人間の可聴域(およそ20Hz~20kHz)

 

 

この異音を止めるには?

 

異音が発生していた原因は分かりましたが、スイッチングレギュレータを使用しているため、部品の振動を止める事はできません。

ではどうすればこの異音を止めることができるのか・・・

 

検討の結果、振動を止めるのではなく、振動していても人間の耳に聞こえない音にできないか!

 

という事でスイッチング周波数を人間の可聴域から外れるように変更を行いました。

具体的にお話しますと、今回使用したスイッチングレギュレータは接続するコンデンサの容量を変える事でスイッチング周波数を設定できることが分かりました。

そのためコンデンサの容量を変更する事により、振動していても異音が人間の耳に聞こえないように変更をできました。

また、本来の電源の仕様についても問題ない事を確認しました。

 

スイッチング周波数

変更前 10kHz ⇒ 変更後 30kHz に変更

 

 

予期せぬ事象を経験し

 

今回は電子部品の振動が、異音となり人間の耳に聞こえてしまうという不思議な現象を経験しました。

メカニズムが分かってしまうと、納得できる内容ではあるのですが、設計時には考えてもいなかった事象でした。

電子回路、特にデジタル回路の世界ではいたるところでスイッチングが行われています。

今回のコイル以外でも使用している部品は常に振動して動作しています。

この振動するスイッチング周波数が可聴域に入らないように、今後は気を付けて設計をしなければならないと、改めて勉強になった事象でした。

 

ここまで読んでいただきありがとうございました。

今回の事象が皆様のお仕事に少しでもお役に立てれば幸いです。

今後も私たち暁電機製作所のエンジニアは、製品の品質向上に前向きに取り組んでまいります。

執筆者
山口洋史
開発本部に所属しており、業務は製品責任者を任せていただいております。 最近は子供とスポーツ観戦に行くことにハマっておりまして、球場まで足を運んで試合を見ながら楽しんでいます。