私は入社27年目、機構設計を担当している中谷です。最近は、YouTubeで昔のプロレス・競馬の動画を見ることにハマっています。

もともと目が悪いのですが、老眼なのか細かいものを見るのが更にキツく感じる今日この頃です。

(最近よくPCのカーソルを見失います・・・)

本題に戻ります。

8年以上前に発生した事象になりますが、券売機のコインカップが写真のように破損するというトラブルが発生しました。

しかも、6台破損があり破損個所もバラバラというちょっとイヤな状況でした。

 

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このコインカップは材質がポリカーボネートで、扉前面より嵌め込み、背面側からねじで4箇所固定しています。

また、払出しされた硬貨の消音対策として、裏面にシリコンを充填していました。

 

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コインカップ裏面

 

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コインカップ裏面にシリコン充填

 

 

このコインカップは、当時精算機や券売機等6機種で採用され2000台以上の実績がありましたが、破損等の報告は聞いたことがありませんでした。
原因がさっぱりわからないまま、まず各機種の差異を確認しました。
製品によっては、扉に固定されカップの下側に何もないものもあれば、扉にはめ込んで四方全部が板金やテーブルで囲まれているものもあり、取付け状態が違うだけで、割れた部分に負荷がかかるようには考えられませんでした。

 

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考えられる原因を列挙すると

外部からの力? ⇒周りに何か当たったような跡やキズはない・・・

溶剤の影響?  ⇒社内ではアルコールでは拭いていない・・・

温度の影響?  ⇒エアコン完備の屋内に保存しており ひどい環境でもなく、温度変化があるわけではない・・・
という状況でした。

 

 

<原因調査>

まず、コインカップ裏面に充填しているシリコンが温度差により膨張したため、開口部にはめ込まれたカップが変形し、破損したのではないか?と考えました。

そのため、取付け治具を製作、急いで近くの工業技術センターを予約し冷熱衝撃試験を行いました。

温度範囲は-10〜+60℃とし、恒温槽に48時間入れました。

シリコン有・シリコン無など、充填量を変え試験しましたが結果は思わしくなく、外観も触った感触も試験前と全く同じでした。

 

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2日間しか予約ができなかったため試験時間が48時間でしたが、5年間保証を想定し温度条件を変えれば何かが起こるかも・・・と再試験を実施しました。

 

余談ですが、この時は会社近くの工業技術センターでは装置の予約が埋まっており、早期解決のため試験は滋賀県北部の工業試験センターで行いました。 

電車移動であったため、大きなバックに治具を入れ、会社と試験センター間を電車と自転車で慎重に搬送した記憶があります。

 

そして冷熱衝撃試験(温度範囲-25~+70℃試験時間40時間)を行いましたが、やはり変化はなく原因はわかりませんでした。

その後、会社に戻ってから社内の恒温槽を高温にしてシリコンが膨張するか試しましたが、シリコンは半日かけても70℃に到達せず断念しました。

 

次に一旦シリコンの調査をやめて、破損した現物を再確認してみました。

内部からの力なのか?外部からの力なのか?何か付着していないか?を調査するため、工業技術センターに破片を持ち込み電界放出型走査型電子顕微鏡試験(電子顕微鏡で破断面を調査)を行いました。

 

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破損した部分の拡大写真

 

 

 

この破断面の調査から分かったことは

・力が下方向と横方向から加わり、破損した。
・破断面の模様から内部から破損した。
・表面に付着していた成分は ポリカの成分、シリコンの成分、人の汗の成分のみの3点のみでした。

その結果から考察すると、下記3つのケースは省けると判断しました。
・外部からの力で破損したケース
・ケミカルによる影響で樹脂が消耗したケース
・シリコンの膨張
内部からの力が加わっているためシリコンのメーカーに再確認しましたが、屋内の環境では樹脂を割るまでになるとは考えにくいとのことでした。

一体内部からの加わった力とは何か?となりましたがコインカップの内部には充填されたシリコンしかないため、再度シリコンに関して調べました。

今回のコインカップ充填用に使用したシリコンは、信越化学工業製 シーラント45 オキシム系のシリコンでした。
記述によるとオキシム系シリコンは、充填後にオキシムガスというガスを発生させ固まりますがこのオキシムガスと樹脂の相性がよくないことから、オキシム系のシリコンは樹脂には使用しない方がよく
使用するのであれば脱アルコール系を使用すること!
とありました・・・。

更に資料にあった記述は

樹脂が溶剤などに触れると、(ミクロ)クラックを生じることがあり、シリコンから発生したガスは、シール用途では大気に放散され影響が出ない場合もありますが、内部に空洞があり、密閉されると、発生したガスが空洞にたまりクラックを発生させやすくなる。クラックは充填してからシリコンが固まるまでの間に発生し、大きさは肉眼では発見できない小さなサイズになるとありました・・・。

 

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コインカップ断面

 

コインカップをカットし断面を見ると、まさにクラックを発生させやすくなる構造でした。

 

これらのことから、今回使用していたシリコンが樹脂の破損を発生させる要因であることがわかり、固まっているシリコンではなく、シリコンから発生するガスが今回の原因と最終的に判断しました。(再現はできませんでしたが・・・)

 

 

<処置>

当時組立中であった券売機に関しては、実績のある方法で対応してほしいというお客様の要望もあり、脱アルコール系のシリコンを使用し対応しました。
(メーカー推奨品:シーラント8051N 脱アルコール系 もしくは シーラント72)

 

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経過観察を行い、現時点で破損の報告は受けておりませんので、処置は問題ないと判断しています。

 

 

<再発防止>

樹脂に対してはオキシム系のシリコンの使用を禁止し、脱アルコール系のシリコンを使用する。
(社内には、2015年1月に再度通達していただいています。)

 

 

<追記>

交換作業や検証等、多くの方に協力をしていただいたことに感謝しております。
原因は、シリコンから発生したガスであるとしましたが、実績があるからということで、使用しているシリコンがどのようなものかを知らず、シリコンに関する知識がないまま採用していたことも原因の一つだと考え、反省しております。

最初から、あちこち試験に行かなくても 文献調べたらわかったのでは・・・という残念な結果なのですが使用した現物の確認は重要だと認識しました。

組立する際に、在庫しているシリコンが足りないため、追加購入した分のみがオキシム系のもので、社内に在庫していたシリコンを確認したところ全て脱アルコール系のものでしたので、出荷済のものには影響がなく、ホッとしました。

今後は同じ過ちを犯さない様注意いたします。
以上です。

執筆者
中谷祐浩
入社27年目、機構設計を担当しています。 最近は、YouTubeで昔のプロレス・競馬の動画を見ることにハマっています。 もともと目が悪いのですが、老眼なのか細かいものを見るのが更にキツく感じる今日この頃です。