本日はこのコラムに興味を持っていただいてありがとうございます。
私は開発本部に所属している吉持と申します。
会社では製品責任者という、製品開発のプロジェクトリーダーのような役割を任せていただいています。
プライベートでは趣味の音楽を楽しんでおり、大学時代の友人と曲を作ったりしています。エレキギターが本来の担当なのですが、曲作りをするようになってからはベースやDTMにも挑戦しており、少しずつ上達するのが楽しいです。(最近は忙しくてなかなか思うように時間が取れませんが・・・)
さて、今回紹介させていただくのは、私が担当した外貨両替機(AES-ME1)で発生した摩訶不思議な現象です。みなさんは道端にある自動販売機の硬貨返却口から、大量のコインがあふれていたらどう思われますか?大半の人が「なんだこれ?ドッキリか何か?まさかこんな事はないだろう。」と思うのではないでしょうか?しかしながら、この「まさか」が実際に起こったのです。
外貨両替機って何?
まずは外貨両替機とは何なのかを簡単にお話します。
読んで字のごとく、「外貨を両替する機械」なのですが、アメリカドルやユーロなどといった外貨を両替機に入金すると、レート計算を自動で行って日本円の紙幣と硬貨に両替し、出金してくれる機械です。
この機能を提供するためには、外貨を受け付ける入金機、日本円紙幣を出金するディスペンサー、日本円硬貨を出金するコインホッパ、さらにはこれらのデバイスを制御するための制御基板が必要です。外貨両替機でもこのような構成で製品を作り上げ、市場で運用を行っていただいていましたが、そんなある日に事件は起こりました。
「1円がいっぱい出てるんですけど…」
事件現場となったのは東京都内のとある飲食店様に設置いただいた外貨両替機でした。この外貨両替機は店外に設置されており、誰でも利用可能な状態で運用をいただいていました。
その日、たまたまお店の前を通りがかった方が、両替機のコインカップに大量の1円硬貨が山盛りになっていることを発見され、コールセンターへ連絡していただきました。
(どなたか存じませんが、ご親切にありがとうございました。さぞ驚かれたことと思います。まさか「1円がいっぱい出てるんですけど…」とコールセンターに連絡する体験をするとは思っておられなかったと思います。)
コインカップに大量に出金されていた1円硬貨は飲食店様にご協力をいただいて、全て回収していただきました。メンテナンスマンが駆け付け両替機の状態を確認すると、両替機がエラー状態で何も制御していない状態なのに、1円排出用のコインホッパが、硬貨の排出動作を続けている事を確認しました。
そこで装置の電源を切るとコインホッパの動作は停止しました。
コインホッパに問題が発生している、と判断し、コインホッパの交換を行って両替機を再起動し、問題なく動作する事を確認して現地対応を終了しました。
犯人は誰だ?
なぜ1円硬貨は全部出てきてしまったのでしょうか?
ここからはこの問題の犯人(原因)探しが始まります。ヒントは大量出金が発生した時、外貨両替機の1円用のコインホッパがずっと出金動作を続けていた、という事実。それと外貨両替機はエラー状態であった、つまり、出金動作中ではなかった、という事実です。
これは、両替機のソフトが何も制御していないのに、硬貨ホッパ―が勝手に払出動作を開始して、しかもずっとその動作が続いていた、という状況を示しています。この状況が発生する原因は何なのでしょうか?社内の有識者に集まってもらい、原因になりうる事象について以下の5つをピックアップしました。
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①ホッパ制御基板が異常動作していた。
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②コインホッパーの制御信号線が筐体と短絡(ショート)し誤動作した。
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③コインホッパ―の電源線や、制御信号線に対するノイズにより誤動作した。
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④コインホッパー内部に金属片などが混入、付着したことによりコインホッパ―内部で制御信号の短絡(ショート)が発生し誤動作した。
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⑤電源電圧の低下や、コネクタ接続不良により誤動作した。
これらの5つの事象について、私たちは一つずつ丹念に可能性の検証を行いました。そして、「④コインホッパー内部に金属片などが混入、付着したことにより誤動作した」が最も可能性が高いと判断しました。
硬貨フィーバーを止めろ!
では、この問題はどのようにすれば起こらない様にできるのでしょうか?今回は④の可能性が高いと判断しましたが、他の事象も絶対起こらないとは限りません。市場で同じ問題を起こさないために、私たちは以下の問題に対して対策を検討しました。
問題①:コインホッパ―の制御信号が短絡しただけで出金を始めてしまう、②の問題も発生しないとは限らない。
対策①:制御信号がONになっただけで出金を開始するのではなく、ソフトから制御コマンドを送らないと動作しない、インテリジェントなホッパを採用する。この対策により、ソフトから制御しないと出金動作が行われないようにしました。
問題②:コインホッパ―に常に電源が入っていると、①③⑤の事象が発生したときに出金してしまうかもしれない。
対策②:出金を行う直前にコインホッパ―の電気を入れ、出金が終わったら電気を切るようにしました。
ソフトでコインホッパ―の電源ON/OFFを管理することで、意図しないタイミングで誤動作しない様にしました。
この2つの対策を採用して、新型外貨両替機(AES-KME)の開発を行いました。この対策を搭載したAES-KMEは市場に数百台設置されましたが、今までに同じ問題は発生していません。
「お金を扱う事」の難しさ
今回発生した内容について調査は簡単ではなかったですが、エンジニアが一丸となってあらゆる可能性を洗い出し、結果として製品の品質を向上させることができました。
この問題で学んだことは「お金を扱う事」の難しさです。金銭を扱うメーカとして、金銭事故はあってはならない事ですが、今回の様な事は実際に起こってみないとわからない、気づけない事でもあります。いくら設計が完璧と思っていても、このような「無知」によって問題を発生させてしまう可能性があります。なので、開発を行うときは製品に関わる色々な事を知り、その上で設計を進めなければなりません。これが「お金を扱う事」の難しさであると学びました。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
今後も私たち暁電機製作所のエンジニアは、製品の品質向上に前向きに取り組んでまいります。